「すみません、パートナーのQと相談させていただき、またかけ直します。」
「何を言ってるんだ! 依頼者である俺が出願しろ、と言っているんだぞ。
迷うことなんかないだろうが。」
社長の剣幕におののいたが、Z弁理士は意を決して喋った。
「我々弁理士は公的な資格であり、公の秩序を乱す行為に荷担することは職業倫理に反します。
ですから、このご依頼はお引き受けできません。」
「依頼者である俺の言うことが聞けないなら、これまでお前たちに払った手数料をすべて返せ!」
「今回のご依頼をお断りしているだけですので、『今までの手数料をお返しする』ということは
全く合理性がないと思いますが・・・」
「俺が納得しないのだ。だから返せ。」
「そこまで仰るのでしたら、結構です。そういたしましょう。」
なんとも理不尽な要求だった。
しかし、このような考え方の社長であれば、次から次へ、
不正競争的な「依頼」が来るであろう。
「依頼者」であることを理由に反社会的な行為をする訳にはいかない。
商標法が守ろうとしている流通秩序を破壊しようとするA社の社長。
開設したばかりの特許事務所の経営状態にもダメージを与える破壊者!
Z弁理士は、Q弁理士とともに、その夜遅くまで、痛飲した・・・
(終)