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◎依頼人という名の破壊者(1)

A社の社長からZ弁理士に相談があった。

Z弁理士は、Aというケーキ店を東京近郊に数店舗持つA社の仕事を
つい先月、初めて請け負ったばかり。

インターネットで売り出したシフォンケーキがちょっとしたヒット商品になりつつある。
張り切って、電話に出る。

「先月出してもらった『東京シフォンケーキ』は登録されたかね?」(*1)

「『二重ハートマーク付きの東京シフォンケーキ』ですよね。
 いや、まだです。半年くらい見てください。」(*2)

「ところで、Y市では有名なBという店のシフォンケーキがあってな。
近郊都市でも知名度が上がりつつあるのだ。
そこで、『Bのシフォンケーキ』というのも、前回と同じ「二重ハートマーク」を付けて
出願して欲しいのだ。」

「え? どういうことですか?」

「だから、『Bのシフォンケーキ』という名前も、欲しいのだよ。
1ヶ月前の我が社と同じように、B店も登録商標と商号の区別が付いていないような会社なのだ。
幸いなことに。」(*3)

「幸いなことに、ですか・・・・」

*1.「地名+普通名称」では、誰もが使いたい言葉であり、
一私人が独占することは流通秩序の面から好ましくないので、
一部の例外を覗いて、登録はできない。(商標法3条)

*2.前記*1.にて説明したように、「地名+普通名称」では登録可能性がないので、
「二重ハートマーク」という図形を加えることで、登録可能性を高めて出願したのである、
と推察される。

*3.商号は、法人設立時などに法務局への登記手続きにて取得できるが、
商標の登録手続きとは、無関係である。
たとえば、商号を取得していても、その商号と同一の商標を取得できることなど保証されていない。