◎近況報告

Top >  フィクション >  ◎近況報告

◎近況報告

「あれ? どうしたの?」

朝、駅までの道で、中学の同級生だった彼女に会った。

「うん、仕事始めたの。朝はこの時間に出れば間に合うから。」

結婚して退職、そして転居した彼女は、2年ほど前、
両親のいるこちらにマンションを購入して戻ってきたのだ。
子どもとご主人と一緒にスーパーで出くわしたのが半年ほど前だっただろうか。

「どこで、何してるの?」

「Y社の研究所がA駅の近くにあるの、知ってる? そこで。」

「ふーん、じゃあ研究職? 良かったね。」


彼女は、大学で化学を専攻し、食品メーカに勤務していたらしい。
Y社は薬品メーカだから、専攻を生かせたのだな、と短絡的に考えた。


「まあ、良かったのかな。」


決して歯切れの良い答えではなかった。
しかし、こんな短いやりとりで歯切れの良い答えが返ってきたら、
きっと違和感を感じたはずだ。
新卒の大学生が就職したんではない。
少なくない人生経験を積んでの再就職なのだ。


「香川君のほうはどうなの?」

「う?ん、相変わらず。あくせくしながら、月日が過ぎている感じ。」


こんな短い言葉に、自分の本音が出る。ちっとも落ち着いて考えていない。
つい、自分に関心が向いてしまった。

「ねえ、知ってる?竹島君、亡くなったんだってよ。」

「えっ? いつ?」

「去年の11月。胃ガンだったんだって。」

思わず、年齢を聞こうとした自分の馬鹿さ加減。
同級生なんだから、自分と同じ歳じゃないか・・・


彼女は、A駅で降りていった。元気そうに。
わざと元気そうに見せたのかもしれないな。


300人のうちの一人の同級生が死んだ。
世の中の確率からすれば、普通のことなのだろ、
などということが頭の中を巡った。

そんな客観報道のようなことしか浮かばないのは、
竹島君と特に親しい、ということはなかったからか?


高校生の頃、自分の子どもにろくな関心もない親たちに、
気楽さや諦めを感じた。


大人ってイヤだな


と、自分の中から切り捨てた。
しかし、今、そのイヤや大人に自分がなっているのではないのか・・・


そんなことを考え始めたら、気分が悪くなってきたので打ち切った。
打ち切る、という決心をする自分に嫌悪感を感じながら。

スポンサードリンク

知財情報をリサーチ(ランキング)

関連エントリー

知財コンサルティング


知財系メルマガ

メールアドレスを入力してください
>>バックナンバー
知財最新ニュース
RSS配信中