◎イヤホン

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◎イヤホン

ハイヒールが右足の小指の付け根付近に噛みついた。

「いてっ」

静かな車内に、自分の声が漏れる。

「済みませんでした。」

30代かな、40くらいかな。小柄な女性が自分に向かって頭を下げている。

私は、その女性の方へ顔を向け、怒ってはいません、

という意思表示をする。

イヤホンを耳にしたまま。そう、イヤホンを外したら女性に対して威嚇の動作になってしまう。

そうなることが面倒だったからだ。


その女性が再び「どうも済みませんでした」と言いながら、次の駅で降りていった。

電車のちょっとした揺れぐらいでふらつくくらいなら、ハイヒールなんて履くんじゃねえよぉ。

二度も謝られると、かえって怒りが増し、頭の中にそんな台詞が浮かんだ。

今夜はとても疲れていた。疲れていて面倒くさいと思えたから良かったのだ。

元気が残ってしまっていたら、あのとき、イヤホンを外して、その台詞を口にしていたかもしれない。

自分が降りる駅に電車が滑り込んで、ふと思った。イヤホンをしていて良かったと。

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